· HARUBOUYA · pm · 12 min read
ベンダーに頼む前に、自分で決めておくこと
見積もりが会社によって何倍も違います。原因はベンダーではなく、渡した情報の粒度にあります。頼む側が先に決めておく6項目と、その書き方をまとめます。

同じ内容で3社に見積もりを取ったら、金額が3倍違いました。よくある話ですが、ベンダーの価格差が3倍あるわけではありません。各社が違うものを想定して見積もっているだけです。
原因は渡した情報の粒度にあります。頼む側が先に決めておくと、見積もりは揃うし、始まってからの手戻りも減ります。
決めておくのは6つです。
| # | 決めること | 決まっていないと |
|---|---|---|
| 1 | 何が困っているか | 手段の議論から始まり、目的がずれます |
| 2 | どこまでが範囲か | 見積もりがぶれます |
| 3 | 誰が使うか | 画面や運用の前提が合いません |
| 4 | いつまでに必要か | 無理な計画か判断できません |
| 5 | 予算の上限 | 提案が的外れになります |
| 6 | 誰が決めるか | 判断待ちで工程が止まります |
1. 何が困っているか
依頼書の1行目に、手段ではなく症状を書きます。
| 書きがちなもの | 書くべきもの |
|---|---|
| システムを作りたいです | 毎月3日かけて手で集計しています |
| AIを導入したいです | 問い合わせの8割が同じ内容で、回答に時間がかかります |
| データ基盤がほしいです | 部署ごとに違う数字を出していて、会議で突き合わせから始まります |
手段を先に書くと、その手段の中でしか提案が返ってきません。症状を書けば、もっと安い方法が出てくることがあります。
あわせて「いま何をしているか」を具体的に書きます。
現状:
毎月1日〜3日、担当者2名が
3つのシステムから手作業でデータを出し、
表計算ソフトで突き合わせている。
所要は合計40時間程度。
突き合わせの過程で毎月2〜3件の不一致が出る。数字が入るだけで、相手の見立てが変わります。
2. どこまでが範囲か
見積もりが割れる最大の原因です。やることではなく、やらないことを書きます。
| 項目 | 今回やります | 今回やりません |
|---|---|---|
| データの取り込み | 受注、在庫 | 会計、人事 |
| 画面 | 一覧と詳細 | 編集、権限管理 |
| 連携先 | 基幹システム1つ | その他 |
| 移行 | 直近1年分 | それ以前 |
| 運用の引き継ぎ | 手順書の作成まで | 運用代行 |
「やらない」欄が空の依頼書は、相手が勝手に範囲を決めます。そこで各社の想定が分かれます。
3. 誰が使うか
| 確認すること | 書く内容 |
|---|---|
| 人数 | 同時に何人が使うか |
| 習熟度 | 日常的にシステムを触る人か、月に数回か |
| 端末 | PCのみか、スマートフォンも必要か |
| 場所 | 社内のみか、外出先からも使うか |
習熟度を書いておくと、画面の作りが変わります。月に数回しか触らない人向けと、毎日使う人向けでは、良い設計が逆になります。
4. いつまでに必要か
| 書き方 | 相手の受け取り方 |
|---|---|
| なるべく早く | 判断できません。最短の提案が来ます |
| 3月末まで | 間に合うかどうかで判断できます |
| 4月の人事異動までに稼働。理由は◯◯ | 一部だけ先に出す案が出てきます |
期限には理由を添えます。理由があると、間に合わない場合に「どこを先に出すか」の相談ができます。
5. 予算の上限
言いたくない気持ちは分かりますが、伝えたほうが得をします。
| 伝えない場合 | 伝える場合 |
|---|---|
| 予算の3倍の提案が来ます | 予算内で何ができるかの提案が来ます |
| 比較に時間がかかります | 比較が早いです |
| 結局やり直し | 一度で決まります |
金額そのものを言いたくなければ、幅で伝えます。「初期費用は◯百万円台まで、月額は◯万円台まで」で十分です。
6. 誰が決めるか
依頼書に決裁の経路を書いておきます。
実務の判断:◯◯(担当)
費用の決裁:◯◯部長(◯万円まで)/それ以上は役員会
会議体:毎週◯曜、次回は◯月◯日判断待ちで止まる期間が、工程の遅れの大半を占めます。最初に経路が見えていれば、相手も打ち合わせの持ち込み方を変えられます。
依頼書の形
A4で1〜2枚です。項目は次の順で並べます。
1. 困っていること(症状と数字)
2. 現状の作業(誰が、いつ、何時間)
3. 実現したい状態(数字で書けるなら数字で)
4. 範囲(やること/やらないこと)
5. 使う人(人数・習熟度・端末)
6. 期限とその理由
7. 予算の幅
8. 決裁の経路
9. 手元にある資料の一覧9番目を忘れません。「既存の設計書がある」と書いてあるかどうかで、見積もりが変わります。
やること
手順1. 現状の作業を時間で測る
見積もりの根拠になります。1か月だけでよいので、実際にかかっている時間を記録します。
| 作業 | 人数 | 頻度 | 1回の時間 |
|---|---|---|---|
| データ抽出 | 2名 | 月1回 | 6時間 |
| 突き合わせ | 2名 | 月1回 | 12時間 |
| 修正 | 1名 | 月2〜3回 | 2時間 |
この表があると、費用対効果の話が数字でできます。
手順2. やらないことを先に書く
やることより先に書きます。先に書くほうが、範囲がはっきりします。
手順3. 3社に同じ依頼書を渡す
口頭で補足しません。同じ紙を渡すと、返ってきた提案の違いがそのまま各社の考え方の違いになります。
手順4. 見積もりの内訳を揃えて比べる
合計金額だけで比べないでください。
| 内訳 | A社 | B社 | C社 |
|---|---|---|---|
| 要件定義 | |||
| 設計・開発 | |||
| 移行 | |||
| テスト | |||
| 保守(月額) | |||
| 含まれていないもの |
最後の行が一番重要です。安い提案は、たいてい何かが入っていません。
失敗例
| 失敗 | 何が起きるか | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 手段から書きます | その手段の中でしか提案が返りません | 症状と現状の数字を書きます |
| 「やらないこと」を書きません | 各社が違う範囲で見積もり、比較できません | やらないことを先に書きます |
| 予算を伝えません | 予算の数倍の提案が来て、やり直しになります | 幅で伝えます |
| 期限だけ伝えて理由を書きません | 間に合わない場合の相談ができません | 期限に理由を添えます |
| 決裁の経路を書きません | 判断待ちで工程が止まります | 依頼書に経路と会議体を書きます |
| 口頭で各社に補足します | 前提が揃わず、比較になりません | 同じ紙を渡します |
| 合計金額だけで比べます | 含まれていない作業が後から出ます | 内訳と「含まれていないもの」を揃えて比べます |
まとめ
- 見積もりが何倍も違うのは価格差ではなく、各社が違うものを想定しているから
- 1行目には手段ではなく症状と数字を書きます
- 範囲は「やること」より先に**「やらないこと」**を書きます
- 期限には理由を添えます。理由があると、分割して出す相談ができます
- 予算は幅で伝えます。伝えたほうが提案が早く収束します
- 決裁の経路を先に書きます。判断待ちが遅れの大半を占めます
- 比較は合計ではなく内訳で行います。「含まれていないもの」の行を必ず作ります
最初にやることは、いまの作業時間を1か月だけ記録することです。その数字があるだけで、依頼書の説得力も、費用対効果の議論もまったく変わります。
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