· HARUBOUYA · pm · 12 min read
なぜエンジニアに話が伝わらないのか
伝わらないのは相手のせいではなく、伝え方の型が違うためです。依頼の書き方、避けたい言葉、質問への答え方を整理します。

「お願いしたはずのものと違うものが出てきた」「簡単だと思ったのに、できないと言われた」。開発と仕事をしていると、この2つが繰り返し起きます。
原因は技術力でも熱意でもなく、渡している情報の型が違うことにあります。埋めるべき欄が空のまま渡されているため、相手が推測で埋めるしかありません。
伝わる形を整理します。
1. なぜ伝わらないのか
理由1:前提が省略されている
依頼する側にとっては当たり前の業務知識が、相手には未知であることが多いです。
× 「キャンセル分を除いて集計してください」これだけでは、次が分かりません。
- キャンセルはどこに記録されているのか
- 出荷後の返品はキャンセルに含むのか
- キャンセルされた月と、注文された月のどちらから引くのか
自分が「説明するまでもない」と思っている部分ほど、伝わっていません。
理由2:要望と手段が混ざっている
× 「この表にフィルタを付けてください」これは手段です。本当に必要なのは「特定の条件のデータだけを見たい」という目的かもしれません。目的を伝えれば、もっと簡単な方法が出てくることがあります。
手段を指定すると、その手段しか検討されません。
理由3:判断に必要な情報が欠けている
エンジニアは実装の前に、いくつもの分岐を判断しています。
| 判断すること | 情報がないと |
|---|---|
| データがないときどうするか | 仮の動きで実装されます |
| 件数はどのくらいか | 遅い作りになります |
| いつまでに必要か | 優先順位が分かりません |
| 誰が使うか | 画面の作りが変わります |
質問が多いのは、理解が浅いからではありません。 埋まっていない欄を埋めようとしています。
2. 依頼するときの型
6項目を埋めます。慣れると3分で書けます。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 背景 | なぜ必要か。今どう困っているか |
| 目的 | 何ができるようになればよいか |
| 条件 | 満たすべきこと。数値で書きます |
| 優先順位 | 必須と、できれば、を分けます |
| 期限 | いつまでに、なぜその日か |
| 決めてよい範囲 | 相手が判断してよいこと |
書き換えの例
× 「受注データのレポートを早めにお願いします」○ 背景 : 毎週月曜の会議で、前週の受注状況を手作業で集計している(毎回2時間)
目的 : 会議前に、前週の受注件数と金額を確認できる状態にする
条件 : ・注文日ベース、キャンセルを除く
・商品カテゴリ別に分ける
・毎週月曜の朝9時までに更新されていること
優先 : 必須=件数と金額 / できれば=前年同週との比較
期限 : 今月末(来月の会議から使いたい)
裁量 : 表示の方法、更新の仕組みは任せます「裁量」の欄が効きます。 任せてよい部分を明示すると、確認のやり取りが減ります。
3. 避けたい言葉
曖昧な言葉は、そのまま曖昧な成果物になります。
| 避ける言葉 | 言い換え |
|---|---|
| なるべく早く | 〇月〇日まで。理由は〇〇 |
| いい感じに | この3つの条件を満たす形で |
| 少し遅いです | 表示に8秒かかります。3秒以内にしたいです |
| だいたいでいいです | 誤差5%以内であればよいです |
| 全部 | 過去2年分、この5項目 |
| 簡単でいいので | 必須はこの1点のみ |
| ちょっと直すだけ | 変更するのはこの箇所 |
「ちょっと」「簡単」は使いません。 作業量を判断するのは相手であって、依頼する側ではありません。この言葉は、見積もりを軽く見せる圧力として受け取られることがあります。
数値で言えるものは数値にする
| 曖昧 | 具体 |
|---|---|
| データが多いです | 月100万件 |
| 遅いです | 1ページ8秒 |
| 時々エラーになります | 1日10回程度、決まって朝9時台 |
| すぐ反映してほしいです | 5分以内 |
4. 「できない」と言われたとき
否定ではなく、制約の説明であることが多いです。聞き方を変えます。
| ×の聞き方 | ○の聞き方 |
|---|---|
| なんとかならないですか | 何が障害になっていますか |
| 他社はできていますよ | どこまでなら可能ですか |
| 本当に無理ですか | 条件を変えれば可能になりますか |
「何を諦めれば、何ができるか」を聞きます。 期間、精度、対象範囲のどれかを緩めると可能になることが多いです。
○ 「全件のリアルタイム更新が難しいなら、
主要カテゴリだけ1時間ごと、では可能ですか」5. 質問されたときの答え方
即答できないときに「確認します」で止めると、そこで作業が止まります。止めない答え方をします。
| 状況 | 答え方 |
|---|---|
| すぐ決められません | 「木曜までに回答します。それまでは〇〇の想定で進めてください」 |
| 判断材料がありません | 「私では決められないので、〇〇さんに確認します」 |
| どちらでもよいです | 「どちらでも構いません。作りやすいほうで」 |
| 分かりません | 「分かりません。調べます」 |
「どちらでもよい」は、はっきり伝えます。 伝えないと、相手は確認を待ち続けます。
6. 仕様を変えるとき
途中変更は起きます。伝え方で受け取られ方が変わります。
× 「やっぱりこうしてください」○ 「先週お伝えした仕様を変更したいです。
理由:現場から〇〇の要望が出たため
変更点:Aの条件をBに変える
影響が出そうなら、期限の相談をさせてください」理由と、影響を聞く姿勢をセットにします。 変更そのものより、影響を確認せずに変えることが問題になります。
7. 用語の擦り合わせ
同じ言葉を違う意味で使っていることがあります。特に業務の言葉です。
| 言葉 | ずれやすい点 |
|---|---|
| 顧客 | 会員か、購入者か、法人か |
| 売上 | 受注か、出荷か、入金か |
| キャンセル | 出荷前か、返品も含むか |
| 有効な | どの条件を満たすものか |
| 最新 | 更新日か、作成日か |
1回、用語の対応表を作ります。 10行程度で足ります。これがあると、以後の会話の精度が上がります。
8. やりがちな失敗
| 失敗 | 起きること |
|---|---|
| 口頭だけで依頼します | 認識のずれが残ります |
| 手段だけを伝えます | もっと簡単な方法が検討されません |
| 期限だけ伝えます | 何を優先するか分かりません |
| 質問への回答を保留し続けます | 作業が止まります |
| 完成後にまとめて確認します | 手戻りが大きくなります |
| 専門用語を避けすぎます | かえって曖昧になります |
途中で一度見せてもらいます。 30%の時点で方向が合っているか確認すると、手戻りが小さくて済みます。
まとめ
- 伝わらないのは、埋めるべき情報が欠けているため
- 依頼は背景・目的・条件・優先順位・期限・裁量の6項目で書きます
- 「なるべく早く」「いい感じに」「ちょっと」を使いません。数値で書きます
- 「できない」は制約の説明です。何を緩めれば可能かを聞きます
- 即答できないときも、進められる形で返します
- 用語の対応表を1枚作ります
- 完成前に一度見せてもらいます
手段ではなく目的を渡すと、たいてい自分が思いつかなかった方法が返ってきます。伝え方を変えるだけで、出てくるものが変わります。
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