· ハルボウヤ · dataflow · 14 min read

バウンスリストを整理するときに気をつけること

会員IDとメールアドレスは1対1ではない。散らばったバウンスリストをまとめるときに踏みやすい落とし穴と、統合の手順を整理する。

IDとメールアドレスの対応が1対1にならない3つのパターンを示した図

届かないアドレスに送り続けると、配信ドメインの評価が下がる。その結果、届くはずのメールまで迷惑メール扱いになる。だからバウンス(不達)したアドレスは配信対象から外す必要がある。

作業としては「バウンスしたアドレスを集めて、配信停止にする」だけに見える。ただし会員IDとメールアドレスは1対1ではないため、素朴に突き合わせると、止めるべきでないものを止めたり、止めるべきものを止め損ねたりする。

実際に踏みやすい落とし穴と、散らばったリストを1本化する手順を整理する。

前提:バウンスの種類を区別する

まず、すべてのバウンスを同じ扱いにしない。

種類意味扱い
ハードバウンスアドレスが存在しない、ドメインが無効即停止
ソフトバウンス容量超過、一時的な受信拒否連続回数で判断
苦情(complaint)受信者が迷惑メール報告をした即停止。解除しない
自主的な配信停止本人が解除操作をしたバウンスとは別管理

苦情と自主停止をバウンスと混ぜない。 性質が違うため、後で解除ルールを決めるときに判断できなくなる。配信ツールによっては同じ画面に並んでいるので、取り込む段階で分けておく。

落とし穴1:同じIDでもアドレスが違う

会員はメールアドレスを変更する。しかし過去の配信ログには、その時点のアドレスが記録されている

会員ID: U0001
  2024年の配信ログ  → [email protected]   ← ここがバウンス
  現在の会員マスタ  → [email protected]   ← 有効

このとき、IDで配信停止にしてはいけない。バウンスしたのは使われなくなった旧アドレスであって、現在のアドレスは生きている。ID単位で止めると、届くはずの顧客に一切届かなくなる。

対処は、抑止の判断をアドレス単位で行うこと

-- バウンスしたアドレスが、その会員の「現在のアドレス」と一致するかを確認する
SELECT
  m.member_id,
  m.email          AS current_email,
  b.email          AS bounced_email,
  b.last_bounce_at,
  CASE
    WHEN LOWER(TRIM(m.email)) = b.email_norm THEN '現在のアドレスがバウンス'
    ELSE '過去のアドレス。会員は停止しない'
  END AS judgement
FROM `プロジェクト.mart.会員マスタ` AS m
JOIN `プロジェクト.mart.バウンス集約` AS b
  ON b.member_id = m.member_id;

判定が「過去のアドレス」であれば、そのアドレスは抑止リストに入れるが、会員そのものは配信対象に残す

落とし穴2:違うIDで同じアドレス

逆のパターン。1つのアドレスに複数の会員IDが紐づく。

  • 家族で1つのアドレスを共有している
  • 退会後に同じアドレスで再登録した
  • 法人窓口の代表アドレスを複数担当者が使っている

この場合、1件バウンスしたら、そのアドレスを持つすべてのIDが影響を受ける。1つのIDだけ止めても、他のIDから同じアドレスへ送られ続ける。

対処は、抑止リストの主キーをアドレスにすること。会員IDではない。配信直前に、宛先アドレスが抑止リストに含まれるかを毎回確認する。

正規化はやりすぎない

突き合わせる前にアドレスを正規化する。ただしやりすぎると別人を同一視する

処理やるか理由
前後の空白を除去やる単なる入力ゆれ
小文字に統一やるドメイン部は大文字小文字を区別しない
全角を半角にやるフォーム入力でよく混ざる
+ 以降を除去やらない別アドレスとして扱う事業者がある
ドットを除去やらない一部のサービス以外では別アドレス

+ やドットの除去は、Gmail など一部のサービスの挙動であって、メールアドレスの一般的な仕様ではない。除去すると、本来別人のアドレスを同一視することになる。正規化は「小文字化・トリム・全角半角」までに留める。

落とし穴3:入退会を繰り返しているユーザー

退会して再入会すると、新しい会員IDが振られることが多い。このとき2つの問題が起きる。

過去のバウンス履歴が引き継がれない。 新IDには何の記録もないため、また同じアドレスに送って、またバウンスする。

逆に、止めっぱなしになる。 過去にバウンスしたアドレスで再入会した場合、抑止リストに残っていると一通も届かない。本人は登録したつもりなのに何も来ない状態になる。

ここで効いてくるのが、バウンス記録に「いつ」を必ず持たせること

記録する項目用途
最終バウンス日時解除判断の基準
バウンス回数ソフトバウンスの連続判定
最も重い種別ハード/ソフト/苦情のどれか
取得元どのツールから来た記録か

そのうえで、最終バウンス日より後に本人の操作があったかを見る。

  • 再入会した
  • 会員情報でアドレスを再設定した
  • そのアドレスでログインした

いずれかがあれば、アドレスが復活している可能性が高い。解除候補として扱う。

-- 最終バウンス以降に本人操作があるアドレスを、解除候補として抽出
SELECT
  b.email_norm,
  b.last_bounce_at,
  a.last_activity_at,
  b.worst_type
FROM `プロジェクト.mart.バウンス集約`   AS b
JOIN `プロジェクト.mart.会員行動サマリ` AS a
  ON a.email_norm = b.email_norm
WHERE a.last_activity_at > b.last_bounce_at
  AND b.worst_type <> 'complaint';   -- 苦情は解除対象外

苦情による停止は解除しない。本人が明確に拒否の意思表示をしているため、性質が違う。

散らばったリストをまとめる手順

バウンス情報は、たいてい複数の場所に散らばっている。配信ツール、過去の手動CSV、サポート窓口への申告。これを1本化する手順。

1. 棚卸し

どこに何があるかを、先に一覧にする。

確認項目
保管場所配信ツールの管理画面、共有ドライブ、担当者のPC
取得方法管理画面からCSV出力、API、手作業
更新頻度日次自動、不定期、もう更新されていない
保持期間全期間、直近1年のみ
種別の名称ツールごとに呼び名が違う

ここを飛ばして統合を始めると、途中で「もう1箇所あった」が出てくる。

2. 生データのまま1箇所に集める

加工せずに縦積みする。 取得元を示す列を足すだけ。

CREATE OR REPLACE TABLE `プロジェクト.raw.バウンス統合` AS
SELECT 'ツールA' AS source, email, bounce_type, bounced_at FROM `プロジェクト.raw.ツールA_バウンス`
UNION ALL
SELECT 'ツールB' AS source, address, reason, occurred_at FROM `プロジェクト.raw.ツールB_バウンス`
UNION ALL
SELECT '手動CSV' AS source, mail, kind, date        FROM `プロジェクト.raw.手動_バウンス`;

この段階で整形すると、後で「元はどうだったか」を確認できなくなる。加工は次の段階で行う。

3. 正規化と除外

小文字化、トリム、全角半角の統一。あわせて、形式として成立していない行を除外する。

SELECT
  source,
  LOWER(TRIM(email)) AS email_norm,
  bounce_type,
  bounced_at
FROM `プロジェクト.raw.バウンス統合`
WHERE email IS NOT NULL
  AND REGEXP_CONTAINS(TRIM(email), r'^[^@\s]+@[^@\s]+\.[^@\s]+$');

除外した行は捨てずに、件数と内容を確認する。大量に除外されるなら、取り込み方が間違っている。

4. 種別の名称を揃える

ツールごとに呼び名が違う。hard_bounce / Permanent / 恒久エラー が全部同じ意味、ということが起きる。

対応表を1枚作る。 元の名称と、統一後の種別を並べたテーブルを用意し、それを結合して変換する。コードに CASE WHEN を書き並べると、ツールが増えるたびに書き換えることになる。

5. アドレス単位に集約する

CREATE OR REPLACE TABLE `プロジェクト.mart.バウンス集約` AS
SELECT
  email_norm,
  MAX(bounced_at)                        AS last_bounce_at,
  COUNT(*)                               AS bounce_count,
  -- 重い種別を優先して残す
  MIN(CASE bounce_type
        WHEN 'complaint' THEN 1
        WHEN 'hard'      THEN 2
        WHEN 'soft'      THEN 3
      END)                               AS worst_rank,
  STRING_AGG(DISTINCT source, ',')       AS sources
FROM `プロジェクト.stg.バウンス正規化`
GROUP BY email_norm;

重い種別が残るように集約する。 同じアドレスにソフトとハードの両方の記録があるなら、ハードとして扱う。

6. 抑止リストを作り、適用ルールを明示する

集約結果から、実際に配信を止めるアドレスを決める。ルールは表にして残す。

種別条件解除
苦情1回で停止解除しない
ハードバウンス1回で停止本人操作があれば解除候補
ソフトバウンス連続3回で停止1回でも到達したらリセット

数字は事業の性質で変わる。 重要なのは、その数字が明文化され、誰が見ても同じ判断ができること。

個人情報としての扱い

バウンスリストはメールアドレスの集合であり、個人情報にあたる。統合作業では扱いに注意する。

  • 作業用に手元のスプレッドシートへ落とさない。共有範囲が追えなくなる
  • 閲覧権限を絞る。データセット単位で権限を分ける
  • 保持期間を決める。無期限に持ち続けない
  • 目的外に使わない。配信抑止のために集めたものを、他の分析に流用しない

作業の便宜でローカルに落としたファイルが、いちばん漏れやすい。

まとめ

  • 会員IDとアドレスは1対1ではない。抑止の主キーはアドレス
  • 過去のアドレスがバウンスしただけなら、会員は停止しない
  • 正規化は小文字化・トリム・全角半角まで。+ やドットは除去しない
  • バウンス記録には必ず日時を持たせる。解除判断の基準になる
  • 統合は、棚卸し → 生のまま集約 → 正規化 → 種別の統一 → アドレス単位に集約 → ルール適用の順
  • 苦情による停止は解除しない
  • バウンスリストは個人情報。手元に落とさない

止めるべきものを止めるのと同じくらい、止めなくてよいものを止めないことが効く。後者は誰も気づかないまま、機会損失として静かに積み上がる。

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