· HARUBOUYA · ec · 11 min read
販路ごとに顧客の見え方がどう変わるか
自社EC、モール、店舗、卸など、販路が分かれている場合の話です。同じ商品を売っていても、取れるデータはまったく違います。販路ごとに何が見えて何が見えないかを整理します。

販路を増やすと売上は増えます。同時に、顧客の見え方が販路ごとにバラバラになります。
自社ECでは1人ずつ追えるのに、モールでは誰が買ったか分かりません。この差を理解していないと、「モール経由のリピート率が低い」という誤った結論を出すことになります。実際は、リピートを検出できていないだけです。
販路ごとに何が取れるか
| 取れるもの | 自社EC | モール | 直営店舗 | 卸・代理店 |
|---|---|---|---|---|
| 個人を識別するID | あり | 一部 | 会員のみ | なし |
| 氏名・連絡先 | あり | 制限あり | 会員のみ | なし |
| 購入履歴 | あり | あり | あり | なし |
| 閲覧・検索の行動 | あり | ほぼなし | なし | なし |
| 離脱した人の情報 | あり | なし | なし | なし |
| メール配信の可否 | あり | 原則不可 | 会員のみ | なし |
| 販売単価 | あり | あり | あり | 出荷額のみ |
卸は「誰が買ったか」がまったく分かりません。分かるのは出荷した数だけです。ここに顧客分析の手法を持ち込もうとしても意味がありません。
見え方の違いが生む誤解
| よくある結論 | 実際 |
|---|---|
| モール経由はリピート率が低いです | 同一人物を判定できないため、低く出ているだけ |
| 店舗顧客の単価が低いです | 会員証を出さない高額購入が集計から漏れています |
| 自社ECの顧客は離脱が多いです | 離脱が見えるのは自社ECだけ。他は見えていません |
| 卸の顧客層が不明 | 構造上、分かりません。調べる先は取引先 |
「数字が悪い」と「見えていない」を区別します。比較する前に、その指標が販路ごとに同じ意味を持つかを確認します。
販路をまたいで比べてよい指標
| 指標 | 比較できるか | 理由 |
|---|---|---|
| 売上金額 | できます | どの販路でも取れます |
| 販売数量 | できます | 同上 |
| 粗利率 | できます | 手数料の違いを含めれば比較可能 |
| 商品別の売れ方 | できます | 同上 |
| 購入人数 | できません | 識別の粒度が違います |
| リピート率 | できません | 同上 |
| 1人あたりの購入金額 | できません | 同上 |
| 新規/既存の比率 | できません | 同上 |
人を数える指標は、販路をまたいで比べないでください。比べたい場合は、識別できる販路どうしに限ります。
販路をまたぐときの粗利の見方
売上は比較できますが、手取りは大きく違います。
| 販路 | 売上から引かれるもの |
|---|---|
| 自社EC | 決済手数料、送料、広告費、サイト運用費 |
| モール | 販売手数料、モール内広告費、ポイント原資、送料 |
| 直営店舗 | 家賃、人件費(固定費のため広告判断には入れません) |
| 卸 | 卸掛率(そもそも売価が違います) |
同じ1万円の売上でも、手元に残る額が販路で2倍違うことがあります。販路別の評価は必ず粗利で行います。
どこまで統合できるか
| 組み合わせ | 統合の可否 |
|---|---|
| 自社EC + 直営店舗 | できます。会員IDで紐付けます |
| 自社EC + モール | 原則できません。購入者情報の利用条件によります |
| 直営店舗 + モール | 同上 |
| 卸 | できません |
モールの購入者情報は、利用できる範囲が規約で決まっています。規約を確認せずに自社の顧客データベースへ取り込まないでください。
現実的な落とし所は次の形です。
統合する範囲:自社EC + 直営店舗(会員IDで紐付け)
統合しない範囲:モール、卸
→ 売上・数量・粗利のみ、同じ表に並べる報告資料の作り方
販路をまたぐ資料は、指標を2段に分けます。
■ 全販路で比較する(金額・数量ベース)
売上/販売数量/粗利/粗利率
■ 識別できる販路のみ(自社EC・直営店舗)
購入人数/1人あたり購入金額/リピート率/新規比率
※ モール・卸は個人を識別できないため、下段には含まない下段に脚注を必ず付けます。付けないと、モールの数字が抜けていることを毎回指摘されます。
やること
手順1. 販路ごとに取れる項目の表を作る
| 販路 | 個人ID | 連絡先 | 購入履歴 | 行動データ | 配信可否 |
|---|
この1枚を作るだけで、議論の半分が終わります。「モールのリピート率を出して」という依頼に、その場で答えられます。
手順2. 各販路の規約を確認する
| 確認すること | どこを見るか |
|---|---|
| 購入者情報の利用範囲 | 出店規約 |
| 販促に使ってよいか | 同上 |
| データの持ち出しの可否 | 同上 |
| 取得できる項目 | 管理画面の出力仕様 |
手順3. 指標の定義を販路ごとに書く
同じ「購入人数」でも、販路によって数え方が違います。
| 販路 | 購入人数の定義 |
|---|---|
| 自社EC | 会員IDの数。未ログイン購入はメールアドレスで名寄せ |
| 直営店舗 | 会員IDの数。会員証提示のみ |
| モール | 注文件数(人数は不明) |
定義を書いた行に「不明」と書く勇気が要ります。書かずに推定値を入れると、その数字が一人歩きします。
手順4. 販路を増やすときに、この表を更新する
新しい販路を検討する段階で、取れる項目を表に追加します。契約前に確認します。契約後に「顧客情報が取れない」と分かっても、もう変えられません。
失敗例
| 失敗 | 何が起きるか | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 販路をまたいでリピート率を比べます | 見えていないだけの販路が「悪い」と評価されます | 人を数える指標は識別できる販路のみで比べます |
| モールの購入者情報を自社DBに取り込みます | 規約違反になる可能性があります | 出店規約を確認します |
| 売上だけで販路を評価します | 手数料の高い販路を伸ばしてしまいます | 粗利で評価します |
| 「不明」を推定値で埋めます | その数字が一人歩きします | 不明と書きます |
| 卸に顧客分析を持ち込みます | 構造上できないことに時間を使います | 出荷数量の分析に切り替えます |
| 販路を増やしてから取得項目を確認します | 契約後では変えられません | 契約前に表を埋めます |
まとめ
- 販路が増えると、顧客の見え方がバラバラになります
- 「数字が悪い」と「見えていない」を区別します
- 売上・数量・粗利は比較できます。人を数える指標は比較できません
- 同じ1万円の売上でも、販路によって手元に残る額が2倍違います
- 統合できるのは自社ECと直営店舗までです。モールは規約を確認します
- 報告資料は指標を2段に分け、下段に脚注を付けます
- 定義の表に「不明」と書きます。推定値で埋めません
- 販路を増やすときは、契約前に取得項目を確認します
最初にやることは、販路ごとに取れる項目の表を1枚作ることです。その1枚があれば、できない依頼をその場で断れます。
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