· HARUBOUYA · ec · 12 min read
新しい販路を増やす前に確認する5つの数字
売上が増えるかどうかより先に、いまの販路の数字を見ます。粗利率、在庫回転、返品率、獲得コスト、運用工数の5つです。この5つで判断できます。

新しい販路の話は、だいたい「売上が◯%増える見込み」から始まります。増える根拠は、その販路の市場規模や他社の実績です。
ここで確認すべきは、増える側ではありません。いまの販路の数字です。既存で回っていないものは、販路を増やしても回りません。
見るのは5つです。
1. 販路別の粗利率
| 販路 | 売上 | 粗利率 | 粗利 |
|---|---|---|---|
| 自社EC | 40,000,000円 | 42% | 16,800,000円 |
| モールA | 30,000,000円 | 28% | 8,400,000円 |
| 直営店舗 | 50,000,000円 | 45% | 22,500,000円 |
新しい販路の粗利率が、既存の最も低い販路を下回るなら理由が要ります。「売上が増えるから」は理由になりません。粗利が増えなければ、手間だけが増えます。
引く項目は次の通りです。
| 引くもの | 販路による差 |
|---|---|
| 販売手数料 | モールは8〜15%程度 |
| 決済手数料 | 販路によって異なります |
| ポイント・クーポン原資 | モール施策への参加は原資負担があります |
| 送料 | 無料ラインの設定で変わります |
| 返品・キャンセル | 販路によって率が違います |
2. 在庫回転
販路を増やすと、同じ在庫を取り合います。
| 見る数字 | 意味 |
|---|---|
| 在庫回転日数 | 在庫が何日で売り切れるか |
| 欠品率 | 売れるのに在庫がない状態の割合 |
| 滞留在庫の比率 | 一定期間動いていない在庫 |
判断の分かれ目は次の通りです。
| 現状 | 新販路の扱い |
|---|---|
| 欠品が頻発しています | 増やしません。既存の機会損失が先 |
| 滞留在庫が多いです | 増やす価値があります。新販路で消化できる可能性 |
| 回転が安定しています | 在庫の配分ルールを決めてから増やします |
在庫を販路ごとに分けるか、共通で持つかを先に決めます。分けると欠品が増え、共通にすると引き当ての仕組みが要ります。
3. 返品率
| 販路 | 返品率の傾向 |
|---|---|
| 自社EC | 商材によります |
| モール | 高くなりやすい(比較購入・まとめ買い) |
| 直営店舗 | 低い(試着・実物確認ができます) |
返品率が5ポイント違えば、粗利率も同じだけ動きます。新しい販路の返品率を、既存と同じと仮定しません。
あわせて確認します。
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 返品の送料負担 | 販路の規約で決まっていることがあります |
| 返品在庫の再販可否 | 再販できなければ全損 |
| 返品処理の工数 | 件数が増えると人手が必要 |
4. 顧客の獲得コスト
| 販路 | 獲得コストの考え方 |
|---|---|
| 自社EC | 広告費 ÷ 新規購入者数 |
| モール | モール内広告費 + 販売手数料の一部 |
| 直営店舗 | 新規会員の獲得に使った販促費 |
モールでは顧客が自社の顧客になりません。手数料を払って1回売っているのであって、次回も買ってもらえる保証がありません。
判断の材料は、2回目以降の購入がどこで起きるかです。
| 状態 | 評価 |
|---|---|
| モールで買った人が、次は自社ECで買います | 獲得コストとして妥当 |
| モールでしか買いません | 毎回手数料がかかります。粗利率で判断します |
同梱物や会員登録の導線で自社に引き込めるかを、開始前に検討します。
5. 運用工数
見落とされやすいですが、ここで破綻することが最も多いです。
| 作業 | 販路が増えると |
|---|---|
| 商品登録 | 販路ごとに形式が違います。1商品あたりの工数が倍になります |
| 価格・在庫の更新 | 更新漏れが欠品と過剰販売を生みます |
| 受注処理 | 管理画面が分かれます |
| 問い合わせ対応 | 窓口が増えます |
| 返品処理 | 同上 |
| 売上の集計 | 販路ごとに出力形式が違います |
数字で押さえます。
現状の月間工数:◯時間
新販路で増える見込み:◯時間
- 商品登録:商品数 × 1商品あたりの時間
- 日次の在庫・価格更新:◯分 × 稼働日数
- 受注・問い合わせ:件数 × 1件あたりの時間増える工数を人件費に換算して、新販路の粗利から引きます。これを引いた後でも黒字かどうかが判断の基準です。
判断の形
5つを1枚にまとめます。
| 確認項目 | 現状 | 新販路の見込み | 判断 |
|---|---|---|---|
| 粗利率 | 最低28% | 24% | 下回ります。要検討 |
| 在庫回転 | 45日、欠品2% | 在庫は共通 | 配分ルールが必要 |
| 返品率 | 8% | 12%想定 | 粗利をさらに圧迫 |
| 獲得コスト | 3,200円 | 手数料に内包 | 自社への誘導導線が必要 |
| 運用工数 | 月80時間 | +月30時間 | 人員配置の検討が必要 |
この表で「やらない」という結論が出ることもあります。それが出せる状態が正しいです。
やること
手順1. 既存販路の5つの数字を出す
新販路の検討より先に、いまの数字を出します。出せなければ、比較の土台がありません。
手順2. 損益分岐を計算する
新販路の月間固定費(出店料・システム利用料・人件費増)
÷ 新販路の粗利率
= 損益分岐の月商この金額が現実的かを見ます。既存販路の月商と比べて、何か月で到達しそうかを書きます。
手順3. 撤退の条件を先に決める
開始から6か月時点で、月商が損益分岐の70%に届かない場合は撤退を検討する開始前に書きます。後から決めると、撤退の判断ができなくなります。
手順4. 小さく始める条件を探す
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 商品を絞ります | 滞留在庫や定番品だけで始めます |
| 期間を区切ります | 3か月だけ試します |
| 運用を代行に出します | 工数の増加を抑えます |
全商品を投入しません。商品登録の工数が最初の障壁になり、そこで力尽きます。
失敗例
| 失敗 | 何が起きるか | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 売上の増加見込みだけで決めます | 粗利が増えず、工数だけ増えます | 5つの数字を先に出します |
| 既存の粗利率と比べません | 最も条件の悪い販路が主力になります | 最低ラインを下回る場合は理由を求めます |
| 在庫の配分ルールを決めません | 欠品と過剰販売が同時に起きます | 共通か分離かを先に決めます |
| 返品率を既存と同じと仮定します | 粗利の見込みが外れます | 販路ごとに想定します |
| 運用工数を計算しません | 現場が回らなくなります | 人件費に換算して粗利から引きます |
| 全商品を投入します | 商品登録で力尽きます | 商品を絞って始めます |
| 撤退条件を決めません | 赤字の販路が残り続けます | 開始前に書きます |
まとめ
- 見るべきは増える側ではなく、いまの販路の数字
- 粗利率が既存の最低ラインを下回るなら、理由が要ります
- 欠品が頻発しているなら販路を増やさないでください。既存の機会損失が先
- 返品率を既存と同じと仮定しません。5ポイント違えば粗利も同じだけ動きます
- モールの顧客は自社の顧客になりません。2回目がどこで起きるかを見ます
- 運用工数を人件費に換算して粗利から引きます。ここで破綻することが最も多いです
- 撤退条件を開始前に書きます。後から決めると判断できなくなります
- 全商品を投入せず、商品を絞って始めます
最初にやることは、既存販路の粗利率を販路別に出すことです。この1列がないと、新しい販路の良し悪しは判断できません。
参考になったら、いいねを押してください。





