· HARUBOUYA · business · 13 min read
自動車業界の業務フローと、置かれるKPIの例
新車販売から納車、アフターまでの流れと、各段階に置かれるKPIを整理します。データ側から見たときの注意点もあわせて整理します。

業種が変われば、データの持ち方も指標も変わります。自動車業界は検討期間が長く、売ったあとの取引が続く点に特徴があります。ここを踏まえずにECと同じ指標を当てると、数字が事業と噛み合いません。
業務の流れと、各段階に置かれるKPIの例を整理します。データを扱う側から見た注意点もあわせて記載します。
1. 登場する立場
| 立場 | 役割 |
|---|---|
| メーカー | 企画・製造。ブランド全体のマーケティング |
| 販売会社・ディーラー | 販売、納車、アフターサービス |
| 中古車・買取 | 下取り、中古車の仕入れと販売 |
| 整備・車検 | 点検、車検、修理 |
| 金融・保険 | ローン、リース、自動車保険 |
メーカーと販売会社でデータが分かれていることが多いです。メーカー側はWebの行動データを持ち、販売会社側は商談と顧客のデータを持ちます。この2つがつながっていないことが、分析上の最大の壁になります。
2. 新車販売の業務フロー
[1] 認知・情報収集 ← Webサイト、カタログ請求
↓
[2] 来店予約・見積依頼 ← ここが最初の獲得地点
↓
[3] 来店
↓
[4] 試乗
↓
[5] 商談・見積提示 ← グレード、オプション、下取り査定
↓
[6] 与信・ローン審査
↓
[7] 受注(契約)
↓
[8] 生産・輸送 ← 納期が読みにくい工程
↓
[9] 登録手続き ← 車庫証明、名義、税
↓
[10] 納車
↓
[11] アフター ← 点検、車検、修理、保険更新
↓
[12] 代替(次の購入) ← 数年後。ここが次の起点検討期間は数か月に及びます。 情報収集から契約まで3〜6か月かかることが珍しくありません。月単位で効果を見ると、施策と成果の対応が取れません。
ECとの違い
| EC | 自動車 | |
|---|---|---|
| 検討期間 | 数分〜数週間 | 数か月 |
| 購入の場所 | オンラインで完結 | 来店が前提 |
| 購入後 | 配送で終わり | 点検・車検が続きます |
| 次の購入 | 数週間〜数か月後 | 数年後 |
| 取引の単位 | 注文 | 顧客+車両 |
3. 各段階のKPI例
段階ごとに分けて置きます。すべてを追わず、詰まっている段階の指標を見ます。
Web・認知の段階
| KPI | 見方 |
|---|---|
| セッション数、車種別ページ閲覧数 | どの車種に関心が集まっているか |
| カタログ請求数 | 検討の初期段階の量 |
| 来店予約数 | 最も重要な中間指標 |
| 見積シミュレーション完了数 | 具体的な検討に入った数 |
| 販売店検索・地図表示数 | 来店意向のサイン |
| 指名検索数 | 認知施策の効果 |
来店・商談の段階
| KPI | 計算 |
|---|---|
| 来店率 | 来店数 ÷ 来店予約数 |
| 試乗率 | 試乗数 ÷ 来店数 |
| 見積提示率 | 見積数 ÷ 来店数 |
| 成約率 | 受注数 ÷ 来店数 |
| 商談期間 | 初回来店から受注までの日数 |
試乗率は成約率と強く関係します。 来店したが試乗していない層に何が起きているかは、見る価値があります。
受注・納車の段階
| KPI | 意味 |
|---|---|
| 受注台数 | 契約した台数 |
| 平均単価 | 1台あたりの受注金額 |
| オプション装着率 | 付帯商品が付いた割合 |
| 下取り率 | 下取りを伴った割合 |
| ローン付帯率 | 金融商品が付いた割合 |
| 保険付帯率 | 保険の契約が付いた割合 |
| 納期遵守率 | 予定日に納車できた割合 |
| 受注残 | 契約済み・未納車の台数 |
受注と納車は別の月に立ちます。 受注ベースの数字と納車ベースの数字は一致しません。どちらの基準で見るかを毎回明示します。
アフターの段階
| KPI | 意味 |
|---|---|
| 入庫率 | 点検・車検で戻ってきた割合 |
| 車検継続率 | 自社で車検を受けた割合 |
| 定期点検の受診率 | 案内に対する反応 |
| 部品・用品の売上 | 付帯の売上 |
| 顧客維持率 | 一定期間に接点があった割合 |
アフターの入庫は、次の購入につながる接点でもあります。点検で来店した際に代替の話が出ることが多いです。入庫率が下がると、数年後の販売が落ちます。
中長期の指標
| KPI | 意味 |
|---|---|
| 代替サイクル | 前回購入から次の購入までの年数 |
| 代替率 | 期間内に自社で買い替えた割合 |
| 顧客生涯価値 | 販売+アフター+金融を合算した収益 |
車両1台の販売だけで採算を見ません。 販売時の利益は薄く、アフターと金融で回収する構造になっていることが多いです。
4. データ側から見た注意点
顧客と車両は別々に持つ
1人が複数台を所有し、1台を複数人で使います。顧客と車両を1対1で持つと破綻します。
| 持ち方 | 内容 |
|---|---|
| 顧客 | 個人・法人の情報 |
| 車両 | 車台番号、車種、年式、登録日 |
| 所有・使用の関係 | 顧客と車両を結びます。期間を持ちます |
所有関係には期間を持たせます。 売却や名義変更で持ち主が変わるため、「いつからいつまで誰の車だったか」を記録しないと、過去の分析が狂います。
同じ人が複数の顔で登場する
| 状況 | 起きること |
|---|---|
| Webでは匿名、店舗では実名 | 同じ人と分かりません |
| 家族で別々に来店 | 世帯として見られません |
| 法人名義と個人名義 | 別の顧客に見えます |
| 販売店ごとに顧客番号が違います | 全社で名寄せできません |
名寄せの方針を先に決めます。 何を同一人物とみなすか(電話番号、メール、車台番号など)を決めずにデータを集めると、後から統合できません。
オンラインとオフラインの接続
Webの行動と、実際の来店・受注がつながらないと、施策の効果が測れません。
- 来店予約時に予約番号を発行し、来店・商談の記録と紐づけます
- 見積シミュレーションの結果に識別子を付けます
- 販売会社側のシステムに、流入元を記録する欄を作ります
この設計は最初にやります。 あとから遡ってつなぐことはできません。
期間のずれ
| データ | 発生のタイミング |
|---|---|
| Webの行動 | 即時 |
| 来店・商談 | 数日〜数週間後 |
| 受注 | 数週間〜数か月後 |
| 納車 | 受注から数週間〜半年後 |
| アフター | 数か月〜数年後 |
同じ月のデータを並べても、因果はつながりません。 Web施策の効果を見るなら、そのとき流入した人が数か月後にどうなったかを追う形にします。コホート(同じ時期に入った集団)で見ます。
5. レポートを作るときに決めること
| 項目 | 決めること |
|---|---|
| 基準 | 受注ベースか、納車ベースか |
| 集計単位 | 台数か、金額か、顧客数か |
| 対象 | 新車のみか、中古車を含むか |
| キャンセル | 受注後のキャンセルをどう扱うか |
| 下取り | 下取り車を別の取引として数えるか |
| 販売会社 | 全社合計か、店舗別か |
| 期間の見方 | 月次か、コホートか |
「今月の販売台数」が、受注か納車かで大きく変わります。 レポートの片隅に基準を1行書くだけで、問い合わせが減ります。
6. つまずきやすいところ
| 症状 | よくある原因 |
|---|---|
| Web施策の効果が見えません | 来店・受注とつながっていません |
| 販売台数が資料ごとに違います | 受注ベースと納車ベースの混在 |
| 同じ顧客が重複しています | 名寄せの方針がありません |
| 過去の分析が合いません | 車両の所有者変更を追えていません |
| アフターの数字が販売と分断 | システムが別で統合されていません |
| 施策の評価が短期すぎます | 検討期間が数か月あることを考慮していません |
まとめ
- 自動車は検討期間が長く、売ったあとの取引が続きます。ECの指標をそのまま当てません
- KPIはWeb/来店・商談/受注・納車/アフター/中長期の段階ごとに置きます
- 来店予約数が最も重要な中間指標です。試乗率は成約率と関係が深いです
- 受注ベースと納車ベースは一致しません。レポートに基準を明記します
- 顧客と車両は別々に持ち、所有関係には期間を持たせます
- オンラインとオフラインをつなぐ識別子は、最初に設計します
- 効果は月次ではなくコホートで追います
業種が変わっても、やることは同じです。どの段階で詰まっているかを、数字で見える形にします。
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