· HARUBOUYA · business · 12 min read
人事給与システムを入れ替えるときに最初に決めること
機能比較から始めると失敗します。移行するデータの範囲、切り替える月、並行稼働の期間の3つです。この3つを先に決めないと、見積もりも判断もできません。

人事給与システムの入れ替えは、機能比較表を作るところから始めると必ず行き詰まります。比較表は埋まるが、埋めても判断できません。
決めるべきは機能ではなく、次の3つです。ここが決まっていないと、ベンダーも見積もれません。
| 決めること | 決まらないと何が起きるか |
|---|---|
| 移行するデータの範囲 | 見積もりが数倍ぶれます。移行作業が終わりません |
| 切り替える月 | 締め処理と重なり、旧システムを止められません |
| 並行稼働の期間 | 現場の工数が想定の2倍になります |
順に書きます。
1. 移行するデータの範囲
人事給与のデータは2種類あります。
| 種類 | 中身 | 移行の難易度 |
|---|---|---|
| マスタ | 社員、組織、役職、給与項目、支給控除の設定 | 必須。ただし項目の対応付けに時間がかかります |
| 履歴 | 過去の給与明細、賞与、勤怠、異動の記録 | 何年分入れるかで工数が大きく変わります |
もめるのは履歴のほうです。「全部入れたい」と言われがちですが、全部入れる必要はまずありません。
判断の材料は次の通りです。
| 用途 | 必要な年数の目安 |
|---|---|
| 年末調整・社会保険の手続き | 当年分と前年分 |
| 退職金の計算 | 在籍期間すべて(ただし計算に使う項目だけ) |
| 過去の問い合わせ対応 | 3年程度。それ以前は旧システムの参照だけで足りることが多いです |
| 分析 | 目的が決まっていないなら、入れません |
現実的な落としどころは、マスタと直近数年の履歴だけを移し、それ以前は旧システムを参照専用で残す形です。旧システムのライセンスを1年だけ延長するほうが、移行するより安いことが多いです。
2. 切り替える月
給与計算には、年に何度か重い処理があります。
| 時期 | 起きること |
|---|---|
| 12月〜1月 | 年末調整、法定調書 |
| 4月〜5月 | 昇給、人事異動、新入社員の登録 |
| 6月〜7月 | 算定基礎届、賞与、住民税の切り替え |
これらと重ならない月を選びます。残るのは2月〜3月、もしくは9月〜10月あたりです。
加えて、月次の締め日との関係を確認します。締めから支給日までの日数が短い会社ほど、切り替えの余裕がありません。「何日から何日までなら止めてよいか」を、給与担当者に直接聞いて日付で押さえます。
3. 並行稼働の期間
新旧の両方に同じ入力をして、結果が一致するかを確かめる期間です。
| 期間 | 向く場面 |
|---|---|
| 1か月 | 支給項目が単純。例外処理が少ないです |
| 2〜3か月 | 一般的。賞与月をまたげるとなおよいです |
| 半年以上 | 現場の負担が大きすぎます。設計を見直したほうがよいです |
ここで見落とされるのが現場の工数です。並行稼働の期間は、給与担当者の作業がそのまま2倍になります。「その期間、他の業務を止めてよいか」を先に合意しておきます。
決めておくと後が楽な、あと3つ
業務をどこまで変えるか
パッケージは、そのまま使えば安いです。合わせに行くと高いです。
| 方針 | 費用 | リスク |
|---|---|---|
| 業務をパッケージに合わせます | 安いです | 現場の反発。運用の変更説明が必要 |
| パッケージを業務に合わせます | 高いです | 次のバージョンアップで作り直しになります |
**判断の基準は「その運用に法的な根拠があるか」**です。就業規則や労使協定で決まっているものは変えられません。慣習で続いているだけのものは、変えられます。
誰が判断するか
人事給与は、関係者が多いです。
| 関係者 | 判断する範囲 |
|---|---|
| 人事・給与の担当者 | 日々の運用、帳票の要否 |
| 経理 | 仕訳、支払、締め日 |
| 情報システム | 連携、権限、保守 |
| 経営 | 予算、切り替え時期の最終判断 |
決められない項目が出たときに、誰に上げるかを最初に決めておきます。ここが曖昧だと、判断待ちで1か月が飛びます。
止まったときの逃げ道
切り替え当日にうまくいかなかった場合、どうするか。
- 旧システムで今回の給与を計算し、切り替えを翌月に延ばします
- そのために、旧システムをいつまで動く状態で残すかを決めておきます
- 判断の期限(例:支給日の5営業日前)を決めておきます
給与は遅らせられません。逃げ道を先に用意します。
やること
現行の帳票を全部並べる
- いま出している帳票を、紙・PDF・画面表示すべて集めます
- それぞれについて「誰が」「いつ」「何に使うか」を1行で書きます
- 使っていないものに印を付けます
この作業だけで、要件の半分が決まります。帳票の数がそのまま移行の工数になります。
誰が何を入力しているかを1枚にする
| 入力するもの | 入力する人 | 元になる情報 | いつ |
|---|---|---|---|
| 勤怠 | 各部署 | 勤怠システム | 月初 |
| 手当の変更 | 人事 | 申請書 | 随時 |
| 振込口座 | 本人 | 届出 | 随時 |
この表を埋めると、連携が必要な箇所が見えます。
例外処理を一覧にする
「この人だけ計算が違う」を全部書き出します。役員、出向者、短時間勤務、休職中、海外在籍。例外はパッケージ選定を左右するため、後回しにしません。
失敗例
| 失敗 | 何が起きるか | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 機能比較表から始めます | 埋めても判断できず、時間だけ過ぎます | 移行範囲・切替月・並行稼働を先に決めます |
| 履歴を全部移そうとします | 移行作業が終わりません。費用が跳ねます | 用途ごとに必要年数を決めます。旧システムを参照用に残します |
| 例外処理を後回しにします | 選定後に「できない」と分かります | 選定前に例外を一覧化します |
| 並行稼働の工数を見ていません | 現場が疲弊し、検証が形だけになります | 期間中の業務量を先に合意します |
| 年末調整の直前に切り替えます | 止められなくなります | 重い処理と重ならない月を選びます |
| 判断する人を決めていません | ささいな確認で1か月止まります | 項目ごとに決裁者を決めておきます |
| 帳票の数を数えていません | 移行後に「あの帳票がない」が続出します | 最初に全部並べます |
まとめ
- 最初に決めるのは機能ではなく、移行範囲・切替月・並行稼働の期間の3つです
- 履歴は全部移しません。用途ごとに必要年数を決め、それ以前は旧システムを参照用に残します
- 切替月は、年末調整・算定基礎・昇給と重ならない月を選びます
- 並行稼働の間、現場の作業は2倍になります。期間中の業務量を先に合意します
- 業務を変えるかどうかは「法的な根拠があるか」で判断します
- 現行の帳票を全部並べる作業だけで、要件の半分が決まります
- 給与は遅らせられません。切り替えを延期する判断期限を先に決めておきます
やることは、ベンダーを呼ぶ前に帳票を並べることです。それができていれば、最初の打ち合わせの密度がまったく違います。
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