· HARUBOUYA · business · 14 min read
新規事業の企画書に、最低限必要な6項目
市場規模と競合分析を厚くしても通りません。判断する側が知りたいのは、何を検証するのか、いくらで、いつやめるのかです。6項目で足ります。

新規事業の企画書が通りません。市場規模も競合分析も書きました。それでも「もう少し詰めて」と戻ってきます。
戻る理由は情報が足りないからではありません。判断できる形になっていないからです。判断する側が知りたいのは、市場の大きさではなく、次の3つです。
- いくらかかるのか
- 何が分かれば次に進むのか
- どうなったらやめるのか
これを含めた6項目で足ります。分量はA4で3枚です。
6項目
| # | 項目 | 書かないと何が起きるか |
|---|---|---|
| 1 | 誰の、どの困りごとか | 「あったら便利」の域を出ません |
| 2 | いまどう解決されているか | 代替手段と比べられません |
| 3 | 検証したい仮説と、その方法 | 何のための投資か分かりません |
| 4 | 必要な期間と費用 | 判断できません |
| 5 | 次に進む条件 | 成功の定義がありません |
| 6 | やめる条件 | 止められなくなります |
市場規模は6項目に入っていません。入れてもよいですが、これだけでは通りません。
1. 誰の、どの困りごとか
対象を絞ります。広げると、誰にも刺さりません。
| 書き方 | 良し悪し |
|---|---|
| 中小企業のDXを支援します | 誰のことか分かりません |
| 従業員30〜100名の製造業で、受注情報を紙とメールで管理している企業 | 判断できます |
困りごとは観察された事実で書きます。
困りごと:
受注情報が営業ごとのメールに散らばっており、
生産計画を立てる担当者が毎朝2時間かけて集約している。
(3社への聞き取りで共通して確認)「(聞き取り3社)」のような根拠を1行添えます。ない場合は「未確認」と書きます。書かないと、想像と事実の区別がつきません。
2. いまどう解決されているか
比較対象がないと、価値を示せません。
| 現在の手段 | かかっているもの | 不満 |
|---|---|---|
| 手作業で集約 | 1日2時間 | 属人化、ミス |
| 既存の業務システム | 月◯万円 | 現場の入力が定着しません |
| 何もしていません | — | 困っているが優先度が低いです |
3行目が重要です。「何もしていない」が最大の競合です。既存のツールより、現状維持のほうが強いです。
3. 検証したい仮説と、その方法
企画書の本体です。この段階で作るものを決める前に、何を確かめるかを決めます。
| 仮説 | 検証の方法 | 成功の基準 |
|---|---|---|
| この困りごとに、月◯万円払う意思があります | 20社に聞き取り | 5社以上が価格に言及 |
| 現場が毎日入力し続けます | 3社で4週間の試用 | 3社中2社で入力率80%以上 |
| 既存システムと連携できます | 1社で技術検証 | 主要3項目の取得に成功 |
検証は1度に1つにします。3つ同時に検証すると、失敗したときにどれが原因か分かりません。
順番は、外れたときの損失が大きい仮説からです。「払う意思があるか」を先に確かめます。作ってから聞くと、作った分が全損になります。
4. 必要な期間と費用
| 項目 | 金額 | 内訳 |
|---|---|---|
| 人件費 | 1,800,000円 | 2名 × 3か月 × 稼働50% |
| 外部委託 | 600,000円 | 試作の開発 |
| ツール・環境 | 150,000円 | 3か月分 |
| 調査・移動 | 100,000円 | 訪問20社分 |
| 合計 | 2,650,000円 |
人件費を必ず入れます。「既存の人員でやるので費用はかかりません」は誤りです。その人が他の仕事をできない分が費用です。
期間は工程ごとに区切ります。
| 工程 | 期間 | 終わりの条件 |
|---|---|---|
| 聞き取り | 4週 | 20社完了 |
| 試作 | 6週 | 3社が触れる状態 |
| 試用 | 4週 | 4週間の利用データ取得 |
5. 次に進む条件
次の段階(本格開発)に進む条件:
- 聞き取り20社のうち、5社以上が想定価格帯に言及
- 試用3社のうち2社で、4週間の入力率80%以上
- 上記2つを両方満たした場合のみ進む「両方満たした場合のみ」と書きます。片方だけで進むと、後で必ず問題になります。
6. やめる条件
最も書かれませんが、最も重要な項目です。
撤退する条件:
- 聞き取り20社で、価格に言及した企業が2社以下
- 試用の入力率が全社で50%未満
- 期間が予定の1.5倍を超えた時点
- 費用が予算の1.3倍を超えた時点
判断する場:◯月◯日の定例。判断者:◯◯判断する日付と人を書きます。書かないと「もう少し様子を見よう」が続き、止められなくなります。
やめる条件を書くと企画が通りにくくなると思われがちですが、逆になることが多いです。判断する側から見て、損失の上限が見えるためです。
書かなくてよいもの
| 項目 | 理由 |
|---|---|
| 詳細な市場規模の推計 | この段階の判断には効きません |
| 5年分の収支計画 | 前提が多すぎて意味を持ちません |
| 競合の網羅的な一覧 | 3社と「何もしていない」で足ります |
| 精緻な画面設計 | 検証前に作ると手戻りになります |
| 組織図・体制図 | 検証段階では2〜3名 |
削ったぶん、3〜6項目を厚くします。
やること
手順1. 1ページ目に全部書く
2ページ目以降は根拠です。1ページ目だけで判断できる形にします。
対象:(誰の、どの困りごとか)
現状:(いまどう解決されているか)
検証すること:(仮説3つまで)
期間と費用:(合計金額と月数)
進む条件:
やめる条件:(日付と判断者)手順2. 聞き取りを5社だけ先にやる
企画書を書く前に5社聞きます。書いてから聞くと、書いた内容を守ろうとして聞き方が歪みます。
聞くのは3つだけです。
- いまその作業をどうやっているか
- それにどれくらい時間・費用がかかっているか
- 過去に何か試したことがあるか。なぜやめたか
3つ目が最も価値があります。過去に試してやめた理由が、自分たちが直面する壁です。
手順3. 費用を3つの案で出す
| 案 | 期間 | 費用 | 検証できること |
|---|---|---|---|
| 最小 | 6週 | 800,000円 | 払う意思があるか |
| 標準 | 14週 | 2,650,000円 | 上記+継続して使うか |
| 拡大 | 24週 | 6,000,000円 | 上記+連携の実現性 |
選択肢を3つ出します。1案だけだと、可否の二択になります。3案あると、規模の議論になります。
手順4. 判断する場を先に押さえる
企画書を出す前に、判断する会議の日程を押さえます。出してから場を探すと、宙に浮きます。
失敗例
| 失敗 | 何が起きるか | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 市場規模と競合分析を厚くします | 情報はあるが判断できません | 検証・費用・条件を厚くします |
| 対象を広く書きます | 誰にも刺さりません | 規模・業種・状況で絞ります |
| 「何もしていない」を競合に入れません | 最大の競合を見落とします | 現状維持を比較対象に入れます |
| 仮説を3つ同時に検証します | 失敗の原因が分かりません | 損失の大きい順に1つずつ |
| 人件費を入れません | 費用対効果の判断が狂います | 稼働率で換算して入れます |
| やめる条件を書きません | 止められなくなります | 日付と判断者まで書きます |
| 1案だけ出します | 可否の二択になります | 3案出して規模の議論にします |
| 書いてから聞き取りをします | 書いた内容を守る聞き方になります | 先に5社聞きます |
まとめ
- 通らない理由は情報不足ではなく、判断できる形になっていないこと
- 必要なのは6項目です。対象/現状/検証/費用/進む条件/やめる条件
- 市場規模と5年分の収支は、この段階では効きません
- 「何もしていない」が最大の競合
- 検証は損失の大きい仮説から1つずつ検証します。作る前に、払う意思を確かめます
- 人件費を必ず入れます。「既存の人員でやる」は費用がかかっていないことになりません
- やめる条件に日付と判断者を書きます。損失の上限が見えるため、かえって通りやすいです
- 案は3つ出します。1案だと可否の二択になります
最初にやることは、企画書を書く前に5社聞くことです。特に「過去に試してやめた理由」を聞きます。そこに、自分たちが直面する壁が全部あります。
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